アパート経営していると避けては通れない「事故物件」というワード。「瑕疵(かし)物件」とも呼ばれているものですが、一般的には「以前住んでいた居住者が亡くなる現場となった物件」というイメージを持つ人が多いでしょう。
しかし、事故物件(瑕疵物件)には種類があり、大きく「物理的瑕疵物件」「心理的瑕疵物件」「環境的な瑕疵物件」の3つに分類されます。そこで、それぞれどのような物件が該当するのか、そして自分がオーナーとなっている物件が事故物件となってしまった際の対応方法についてご紹介していきます。
「物理的瑕疵物件」とは「雨漏りが発生した物件」「シロアリが発生した物件」「構造上の問題がある物件」「自然災害による被害を受けた物件」などが該当します。
雨漏りする物件は物理的瑕疵物件に該当します。
雨漏りの主な原因は、屋根や外壁などが劣化によるものがほとんどです。しかし、築年数が浅いアパートの場合には、建築の際に施工不良があった可能性も。雨漏りは最上階の部屋で発生するイメージがありますが、1階部分にある部屋でも雨漏りが発生するケースもあります。
雨漏りが発生した物件は、住んでいて不快感があるだけではなく、壁や天井、柱などの腐食につながる可能性も考えられます。
知らないうちに家屋を蝕んでしまうシロアリが発生している物件も、物理的瑕疵物件です。
シロアリは、水分を多く含む場所にある木材やダンボールなどを好みます。例えば壁にヒビが入っている場合、そこから水が入り込んで壁や柱が水分を含み、その部分がシロアリの住処となることがあります。そのため、小さなものだったとしても、壁のヒビなどは早めに埋めるなど対処をしておく必要があります。
シロアリは木造建築で発生するものと考えられがちですが、鉄筋コンクリートの建築物でも巣を作るケースもあります。
例えば、壁にひび割れが起きている、建築資材にアスベストが使用されている、家の耐震強度が国の基準を満たしていないといった場合も、物理的瑕疵物件に該当します。
特に、アスベストに関しては社会的な問題になったこともあり、ご存知の方も多いでしょう。空気中に漂っているアスベストの飛散繊維を吸い込んでしまうことで、肺がんなどの健康被害を発生させる可能性があるといわれています。
現在、アスベストに関する規制は非常に厳しいものとなっているため、新しい物件についてはアスベストの心配は必要ないといえますが、古い物件の場合はアスベストが使われている可能性があります。
過去に自然災害によって土地や建物が被害を受けている場合も、物理的瑕疵物件に該当します。例えば火災や地震、水害が発生して被害を受けてしまうと、外から見ると問題はなさそうでも、家の内部に問題が発生している可能性があります。
さらに、川の近くや海沿いに建っている物件は、再度災害が起きた場合に同様の被害が起こるかもしれません。近年自然災害が徐々に増加していることから、大きな問題となっている部分といえるでしょう。
心理的瑕疵物件とは、何らかの事件や事故が起こり、その物件に住むことに心理的な抵抗を感じる物件を指します。具体的には、殺人や自殺、孤独死などが起こった物件が該当します。
心理的瑕疵物件としてまずあげられるのが、部屋の中で「殺人」が行われたケースです。例えば、「ここのアパートで殺人事件があった」と聞くと、その物件には住みたくない、と考える人が多いでしょう。
部屋の中で殺人事件が起こった場合、血痕やシミが残ってしまう可能性が高いといわれています。たとえ事件後にリフォームや清掃を行ったとしても、やはり住むのには抵抗感がある人がほとんどでしょう。
「この部屋で自殺した人がいる」と聞くと、住むのに抵抗がある人も多いはずです。そのため、自殺した人がいる物件も心理的瑕疵物件のひとつとされています。
自殺が起こったと聞くと、その部屋に良いイメージを持てなくなりますし、どのような自殺方法だったのかによって壁や床に血痕やシミが残る可能性も。専門業者による清掃やリフォームが行われるものの、やはり住むのには抵抗感があるでしょう。
自殺者の数は2003年以降減少傾向にあるものの、2,018年時点でも年間で2万人を超える人が自殺をしているというデータ(※)がありますので、自分の家の中で自殺をしている人も相当の数にのぼると考えられます。
(※)参照元(PDF):厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/karoushi/19/dl/19-1-3.pdf)
例えば部屋の中での転倒による死亡や、バスタブに浸かったままでの溺死、窒息死、有毒ガスの発生や熱などによる死亡事故が起こった場合も、心理的瑕疵物件に該当します。
これらは不慮の事故、ということもできますが、やはり自分が借りるかもしれない部屋の中で事故が起こり、その事故が原因で人が亡くなったという事実を知ると、良い印象は持てないものです。
年々増加傾向にあるといわれる孤独死が起こった物件も、心理的瑕疵物件として扱われることがあります。
孤独死の原因はさまざまですが、例えば病気や老衰など、事件性のない自然死であった場合は、基本的には心理的瑕疵物件には該当しません。
ただし、亡くなってから発見されるまでかなりの時間が経過しており、物件に損失が発生している場合には心理的瑕疵物件として扱われます。
例えば一人暮らしで近所の人たちとの交流があまりなかったり、遠方にしか家族がおらず、あまり連絡をとっていなかったりするケースなどは、死亡してから発見するまで時間がかかってしまうことが多いとされています。
人の死亡が伴う事件があった物件も、心理的瑕疵物件として扱われます。
過去に火災が起こって人が亡くなった物件も、心理的瑕疵物件に該当します。「以前この物件で火事があって、人が亡くなっている」と耳にした場合は、やはりその部屋に抵抗を感じる人が多いでしょう。
しかし、ボヤ程度の火事であれば心理的瑕疵物件としては扱われません。程度や被害状況にもよりますが、火災が起きてしまった物件も事故物件として扱われることがあると覚えておくと良いでしょう。
環境的な瑕疵物件とは、土地や建物には全く問題ないにも関わらず、物件の周辺環境に何らかの問題があるとされる物件を指します。
つまり、周辺の環境によって快適に過ごせない可能性がある部屋ということ。「心理的瑕疵物件」に値するといわれる場合もあります。
ただし、法的な規制はなく、問題となる施設や振動や騒音などの影響に関しては明確な基準がない、という点が難しいところです。それでは、どのような物件が環境的な瑕疵物件に該当するのかをご紹介します。
該当する物件のそばに反社会性力の事務所などがある物件は、環境的な瑕疵物件に該当します。「反社会勢力の事務所」と聞いただけで恐怖を感じてしまう人も多いはず。
何か事件が起こった時に、自分も巻き込まれてしまうかもしれない…という恐怖やストレスを日々感じながら過ごすことになりかねません。特に子育てをしている世帯などについては心が休まらない環境といえるでしょう。
反社会勢力に属する人が近隣に住んでいる場合も、環境的な瑕疵物件として扱われます。
近隣に反社会勢力の事務所がある場合と同様、事件に巻き込まれたり、何らかの嫌がらせを受ける可能性があると考えると、積極的に住みたいと考える人は少ないでしょう。
近所に宗教施設がある場合も、瑕疵物件として扱われる場合があります。
ただし、「宗教施設」というと非常に広い範囲を含みますので、すべての宗教施設が瑕疵物件に該当するとは限りません。対象となる物件に住むにあたって、心理的な悪影響を及ぼす場合に「瑕疵物件に該当する」と判断されます。例えば、大音量の音楽や祈祷の声が聞こえてくる、何らかのにおいを発している、周辺の住人を激しく勧誘するといった場合などが該当します。
該当となる物件の近くに、葬儀場や火葬場、ごみ処理施設などの施設がある場合も環境的な瑕疵物件として扱われます。葬儀場や墓地などは全く気にしない、という人もいますが、火葬場が近くにある場合はあまり良い印象を抱かない人が多い傾向があります。
また、ごみ処理施設や産業廃棄物施設、工場などがある場合は、騒音や異臭、大気汚染、土壌汚染などのトラブルが起こる可能性があると考えられるため、瑕疵物件として扱われることが多くなります。
万が一、自分がオーナーを務めるアパートが事故物件になってしまった場合には、どのように対応するべきなのでしょうか。
事故物件になると、まず心配なのが「入居者が集まらない」「いま入居している人が退居してしまわないか」という問題でしょう。その問題をクリアするためにできる対策を立てることが必要ですが、むやみやたらと家賃を下げる、売却を考える前に、どのような対策ができるかを管理会社と一緒に考えていきましょう。
アパートのオーナーとして、「事故物件の告知義務」は覚えておかなければいけないポイントです。宅地建物取引業法により、事故物件である場合には、重要事項説明において借主に説明することが義務付けられています。
しかし、告知義務があるとはいっても「事故物件」の定義は曖昧なものが多く、万が一事故物件となってしまった場合でもどこまで告知したら良いのか迷うケースも少なくないでしょう。
そのため、管理会社と相談しながら告知義務の有無を判断する、という流れが一般的です。
事故物件になってしまったアパートは、どうしても入居者を見つけるのが難しくなります。どうしても空室を作りたくないがために、「バレなければ告知をしなくてもいいのではないか?」と安易に考えることだけは避けなくてはいけません。告知義務があることを知りながら隠してしまった場合には、宅建業法違反となります。
告知に関して明確な決まりはないものの、告知義務を怠って損害賠償を請求されたケースもあります。一例では、契約や転居に伴う費用が損害として認められたばかりではなく、慰謝料や弁護士費用まで認められています。
また、現在は事故物件かどうかインターネットで調べられる場合もあります。そのため、告知義務については安易に考えず、専門家に相談するなどしながら慎重に告知するかどうかを決めていきましょう。
自分が経営しているアパートが事故物件になり、空室が続くようになってしまった場合には、何らかの対策を考える必要があります。
具体的には、家賃の値下げは避けては通れないでしょう。場合によっては、そのエリアで最安値のレベルまで値下げをしないと入居者が決まらない場合もあります。また、入居者が集まらないばかりではなく、退居者が出ることも防がなくてはいけません。そのため、現在入居している人へのフォローも行った上で、退居を思いとどまってもらえるような対応も必要となってくるでしょう。
空室が続く場合には、まずどのような対策ができるのかを管理会社としっかりと話し合いましょう。
管理会社であれば、そのアパートだけではなくそのエリア全体の情報を持っている場合が多いですし、どのようなニーズがあるかも把握しています。また現在の入居者に関しても、管理会社に相談することによってどのような要望があるのか、そしてどんな対策が可能なのか決めやすくなるでしょう。
万が一事故物件となってしまった場合、一人で悩まず、管理会社へ相談しましょう。むやみやたらと賃料を下げたり、空室になってしまったからといって売却を考えたりする前に、しっかりと対策を練り、対策することによって空室を埋められるはずです。
驚く人もいるかもしれませんが、意外と事故物件にメリットを感じる人もいるのも事実です。事故物件であることを全く気にせず、家賃が安いという点で入居を決める人もいます。また、少数ですが「事故物件に住みたい」と考える人も。
このように、事故物件にはそれなりの需要があることを知っておけば、むやみに家賃を下げる必要がない可能性もあります。また、駅から近いなど好条件が揃っていれば入居者が決まる場合もあります。
この記事では、「瑕疵物件」の種類や告知義務、対策についてご紹介してきました。アパート経営には、どうしてもリスクがあります。大切なのは、そのリスクを恐れるのではなく、どのようなリスクがあるのかを把握した上で、事前に対策をしっかり行っておくこと。万が一経営するアパートで事故が起こってしまった場合も冷静に対応できるよう、十分に準備をしておきましょう。